体力自慢たちが躍動する、体力自慢たちのための祭、SASUKE。放送開始から25年以上が経過する、言わずと知れたスポーツエンターテイメント番組である。
「そり立つ壁」「ローリング丸太」をはじめとするエクストリームなアスレチックに、幾人ものアスリートたちが挑み、幾人ものアスリートが散ってきた。
ミスターSASUKEと呼ばれるまでになった山田勝己のように、SASUKEの制覇に憧れ、人生を賭ける者もいる。
僕もそんなSASUKEに憧れる者のひとりだ。
僕とSASUKE
当時小学1年生であった僕はSASUKEを視聴し、制覇をめざして躍動するアスリートたちに度肝を抜かれた。時を同じくして、SASUKEに魅了されたものがいた。同じクラスの小林くんである。
小学校に進学して間も無く、すこしの期待と相当量の不安を胸に抱えた6歳児たちであったが、互いのSASUKE愛に共鳴した我々はすぐに意気投合し、SASUKEにまつわる想いを手紙に書いて交換するまでになった。
そこで僕と小林くんは固い約束を交わしたのだ。
「大人になったらSASUKEに出て、制覇しよう」と。
しかし、これまでの僕の歩みといったらどうだ。
中学は帰宅部、高校も帰宅部、大学では演劇をかじったものの、見事な文化系未満と成り果ててしまった。
非常にまずい。ここまでSASUKEとはほど遠い人生を歩んできてしまった。睡眠大好き。文化大好き。ビールが美味しい。ごめん、小林くん。
ただ、あの頃の約束を無に帰すのは大変に心が痛む。あの頃の小林くん、あの頃の自分、申し訳ない。こんなんなっちゃった。
でも、でも、僕は大人になったのだ。セピアに霞む向こう側にいるあの頃の彼らのために、ぜひともSASUKEをクリアしたい。
そう。大人。手を尽くしてなんとかできるのが大人ってものだ。
小林くん…………
僕……大人になって……
SASUKEの…………
ゴールを作ったよ。
家SASUKE 開幕
我が家にSASUKEのゴールが出現した。例の赤いボタンを押してしまえば、即制覇である。
この部屋ではつい先ほどまで豚バラもやしを食べていた(給料日前なので)。まさに生活感あふれるリビングであったのだが、こうなるともはや緑山スタジオに他ならない。
アスリート人生とは縁遠い僕も、SASUKEを手軽に制覇できるようになった。端的に言って胸熱である。
祝!家SASUKE開幕!
そり立つトイレ
さぁここは難関エリアのそり立つトイレ。
幾人もの挑戦者たちが跳ね返され続けてきました。
そしてこの挑戦者、ここまでの競技でそろそろ乳酸が溜まっているでしょうか…。
これは「溜まって」いそうだ…。果たして…?
おっと……!?
出ました!乳酸も一緒に全部出ました!クリア!
ローリング布団
こちらも難関、ローリング布団。
ローリング布団は時間との戦い(寝坊のこと)。なるべく時間をかけずに速やかに脱出したいところだが、このエリアで数多くの挑戦者が挑戦を終えていった…(二度寝のこと)。
会場(寝室)には警告音(目覚まし)がけたたましく鳴り響いている!
この難関(布団)を乗り越えられるか!クリアするには少々厳しいか!?!?
ウィーン ウィーン ウィーン……
おーっと……!
起きました!!なんとクリアー!!
……。
確かに家の中だとはいえSASUKE感は僅かに感じて満足である。しかしながら、原点からかけ離れすぎている感じも否めない。いったん立ち止まって考えてみよう。
現在の自分はいいと思うが、小学生の頃の自分はなんて言うだろうか。
脳内でこの光景を、かつての彼らに見せてあげようと思う。小林くん、どうかな…。
あぁ…。
泣いてます。悲しくて。
ええ。先生も悲しいです。
あの頃の僕ら、おそらく1週間ほど学校にも公文式にも行けなくなってしまう感じでしょんぼりしているので、せっかくならばもう少しSASUKEに寄せていこうと思う。
さあ、いよいよ外SASUKEの開幕だ!
もっと制覇感を出そう!
SASUKEといえばやはり屋外。緑山スタジオという場で撮影が行われているが、その名の通り、SASUKEには草木の緑色、青い空が不可欠であろう。
というわけで外に運び出した。
おお!SASUKEだ!
さらにクリア感を出すべく、もう一つのギミックを用意した。ゲートが開く瞬間に噴射される煙である。
本家のSASUKEは特殊効果用の二酸化炭素を使用していると思われるが、そこまで大規模な発注をかけられるほどのパワーは僕にはない。
そこで用意したのがこちら。
スポーツ用の冷却スプレーで代用したいと思う。このコールドスプレーであるが、「スプレー芸」でお馴染みのお笑い芸人 ヤジマリー。が愛用しているものと同じモデルを購入した。ご存知ない方は何を言ってるかわからないだろうが、本当にそうなのだ。
せっかくなのでヤジマリー。だけでも覚えて帰ってください
また念のため明記しておくが、ヤジマリー。氏も僕も特殊な訓練を受けているので問題ないが、スプレーを本来の用途以外に使用するのは全くおすすめしない。
雰囲気作りを担う新要素のスプレーを加えると、我々が用意したSASUKEのゴールはこのような感じになった。
SASUKEっぽさと、っぽくなさが相殺しあってプラマイゼロ、いや、ギリマイナスのような光景になった。
余談だが、わざわざスプレーを噴射するためだけに大学時代のサークルの後輩たちに協力してもらった(さすがに申し訳ないのであとで焼肉をご馳走した)。
面識のない後輩もいたのだが、僕はいまごろ彼に「ミスターSASUKE」と半笑いで呼ばれているかもしれない。
さて、そんなこんなで機は熟した。
20年来の夢、SASUKEをクリアする時が来た!
…
……
…………
最後のエリアを突破し
いよいよ…!?
クリア!!
せっかくのクリアを独り占めするのももったいない話であるので、友人にもクリアしてもらおうと思う。
…
……
…………
疲労困憊であるが確実に歩みを進める!
乳酸が溜まりに溜まったその腕で、噛み締めるようにボタンを……!
押した!クリアー!
あの大規模なセットがない分、物理的に「低い」というか、地に足がつきすぎている感じは否めないが、かなりSASUKEっぽい。20年越しの伏線回収という感じがしてきた。
ファイナルステージを背に
勢いに乗ってさらに撮影場所を変えてみる。本家SASUKEのファイナルステージは高いタワー状のエリアとなっており、それを登りきることができれば、いわゆる完全制覇。いわゆる誉れである。
SASUKE界隈においては、無骨な骨組みで構成されたそのタワーはSASUKEの象徴として扱われている。もはやメッカと言って過言ではない。そんなメッカを背にすると、SASUKE感が増して気分が盛り上がってくるはずだ。
札幌でタワーといえばテレビ塔だ。テレビ塔をファイナルステージに見立てて「クリア」してみるとどうだろう。
クリアーーー!!
クリアーーーーー!!!!
(ここまで実況は古舘伊知郎風味でお送りしました)
左右に綺麗なお花が咲いているのを見なかったことにすると、絵面はとてもSASUKEだ。
しかしなんだろう、見た目の「クリアしてる感」はかなりあるのだが、プレイヤーからすると「クリアできちゃっている」ような妙な感覚が強く、心に引っかかりが残る。
だって何一つクリアしていないのだから。万引きしたものだけで構成されたクリスマスパーティに参加したら多分こんな気分になると思う。
でもちょっと満足した自分もいる。
20年前の僕、そして小林くん、これで許してほしい。
小林くん、元気ですか
現在、ちょうどSASUKE2024の出場者募集が行われているようである。これを機会にSASUKEにエントリーしてみようと思った。エントリーフォームに目を通してみたが、やはりスポーツでの実績や体力を問われるらしい。
Q.現在までのスポーツ歴(学校での部活やスポーツクラブ等)
中学生のころ、野球部に2ヶ月間所属し、基礎練習をしていました
Q.スポーツにまつわる賞や功績、大会出場歴など
小学生のころ、校内のぞうきんがけリレー大会に出場しました
Q.体力づくりのために日課にしていること
最寄駅の一駅前で下車して歩いています
……ちょっとこれではさすがに厳しいかもしれない。今度は二駅前で降りて長めに歩こうと思う。
小林くん、会場で待っています!